「出そうで出ない」状態をなんとかしたい

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目次

    88歳の父に関する相談

    88歳の父は便秘気味で、毎日「出そうで出ない」とポータブルトイレに座ったりやめたりを繰り返しています。「出そうで出ない」とはどのような状態で、どう対処したらよいでしょうか?
    (相談者:50代 男性)

    中島先生 監修医ワンポイント解説

    「出そうで出ない」とは、便意は感じていても押し出すことができない状態です。まずは医師に相談し、それから食事や運動など日々の生活を見直し、便秘にならない習慣を作っていきましょう。それでは、詳しく説明していきますね。

    シニアの便秘の特徴

    相談者のお父さんは「出そうで出ない」状態が続いているのですね。つらいですよね。では、まずはシニアの便秘についてお話します。高齢になると摂取する水分量や食事量が減る傾向にあるため、水分摂取量の低下によって便が硬くなり、食事量の低下によって便が少なくなります。また運動をしないことで、排便に必要な筋力が低下する、加齢に伴って大腸が便を運ぶ力が低下する、あるいは感覚の低下によって肛門近くに便がやってきても便意を感じない、などもシニアの便秘の特徴として挙げられます。

    食事量の低下は、体の筋肉が減っていくサルコペニアという状態、さらには寝たきりにもつながりますし、それがさらに便秘にもつながって、食事量の低下、栄養不良という悪循環になります。つまり、サルコペニアや寝たきりにも、便秘は関係しているのです。
    高齢者の便秘の主な特徴

    食事量が少ないと「出そうで出ない」状態になることも

    相談者のお父さんは「出そう」とは感じているので、感覚の低下は大きくないと言えます。そのうえで「出ない」のは、お尻の穴が緩まない状態(直腸肛門機能障害)のほか、食事量が少ないことなども原因として考えられます。

    一般的にウサギのようにコロコロとした小さい便のほうが出しやすいと考えられがちですが、実際はバナナくらいの大きさがあるほうが物理学的にも出しやすいのです。便を出すためには、いきんでお腹に力を入れますが、便が少ないと排便時により強くいきむことが必要になります。一方でバナナ状の便ならば、軽いいきみでするっと出すことができます。

    今回のお父さんの場合、食事量が少ないことが予想されます。簡単に食事量を増やすといっても難しい面もあるとは思いますが、まずは朝食を抜かずに食物繊維の多いバランスのとれた食事を目指すことが大切です。そのことを、お父さんご本人にも伝えてください。
    便の大きさと出しやすさ

    便秘のリスクを考え、お薬で排便してもらうこともあります

    便秘対策には、食事をきちんととる、水分も十分にとる、運動をする、などが必要です。それでもよくならないときは薬によって便秘を対策させるのが一般的です。しかし、患者さんによっては、まずはつらい状況を改善することを優先させるため、わたしはこの順番を変えることもあります。

    つまり、最初に薬で排便してもらい、その後で生活習慣を対策していくということです。便が硬い場合には浣腸を使い、それから緩下剤(かんげざい:便に水分を取り込ませることで排便しやすくする薬)を使って、排便することを優先します。なぜなら、トイレでいきむと血圧が急激に上がって、その結果、脳卒中や心筋梗塞を招いてしまうことがあるからです*1。実際、便秘があると死亡や心筋梗塞、虚血性脳卒中のリスクが高くなるという報告もあります*2。こういったリスクがあるため、まずは薬で排便を促すようにしていくのです。
    介護者ができること

    介護者ができること

    介護者ができることとしては、排便の環境を整えることが重要です。高齢になると、転倒しやすくなりますし、冬の寒い時期にはトイレに行くこと自体もつらくなります。寒いトイレはそれだけで血圧の上昇につながりますので、ヒーターなどの暖房機器で暖かくしたほうがいいですね。

    また、便意がなくても意識してトイレに行くようにすることも重要です。シニアではあまりトイレに行かない方も多いのですが、排便しようとしないとその状態に慣れてしまい次第に便意を感じにくくなってしまうことがあります。そのため、食事後は便意がなくてもトイレに行かせるようにするなど、習慣化することが大切です。食事に関しては、まず毎日朝食をとるようにして、食物繊維が多くとれる食事を出すように心がけていただきたいと思います。栄養をとってサルコペニアにならないようにし、さらに便の容積を増やしていただく必要があるためです。ほかには、腹部のマッサージなどもよいかもしれません。

    ただし、それでも便秘が改善しない場合は、ためらわずかかりつけの医師に相談するようにしてください。先ほど申し上げましたように、便秘はさまざまなリスクになります。まずは、便秘のつらい状態を改善することを第一に考えていただければと思います。
    *1 Ishiyama Y, et al. J Clin Hypertens (Greenwich). 2019 Mar, 21(3), 421-425.
    *2 Sumida K, et al. Atherosclerosis. 2019 Feb, 281, 114-120

    寝たままで行える腹部マッサージ

    便秘の対策に運動を取り入れることは大切ですが、高齢の方や介護を必要としている方には難しい場合があります。そのような方には、寝たままで行える腹部マッサージをおすすめします。例えば、便が大腸のねじれに引っかかるのを防ぐマッサージのやり方は次の通りです。

    1. 仰向けに寝て、膝を立てて腹筋の緊張をゆるめます。
    2. 恥骨の上からへそまでの下腹部を両手でやさしく1分間ゆらします。
    3. お腹の左側に便秘による痛みがある場合は、その部分を両手で挟んで1分程度やさしくゆらします。

    起床時や就寝前に、①の姿勢をとり②と③を1分ずつ行ってみてはいかがでしょうか。高齢者向けの便秘対策に役立つ体操は、こちらでも詳しく紹介していますのでぜひご覧ください。

    参考:中島淳編集, なぜ?どうする?がわかる!便秘症の診かたと治しかた, 南江堂, 2019
    病院のイラスト

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    監修者(中島先生)

    監修

    横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 中島 淳 先生 

    横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 主任教授、診療科部長。医学博士。
    1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
    ※2022年12月現在の情報です。

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